はたしてそれってどうなのよ。
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私は人工知能について興味があるので、たびたびAIと名の付く本を読んだりあるいはネット上の記事を閲覧したりしている。ところが、飲み会や会社の同僚とはそういった類の話をしない。だから、これはたまたま起きた出来事と思ってほしい。私よりも10歳ほど若い同僚の女性と飲みに行った折に人工知能の話をしたら、珍しく彼女は自分の人工知能に対する考えを示してくれた。それは、人工知能が将来普及しても、世の中に残る職業は何か?という話題だ。
「会計とか、弁護士とかにも人工知能が使われているらしいよ。でも医者は最後まで残るだろうね。だってさ、ロボットに診断してもらうって、相手は人間じゃないから信頼できないよね。」
「信頼できない?相手が人間じゃないから?。私の知り合いで医者嫌いの人がいて、その人は医者は信頼できないって言ってたわよ。」
「へー。誤診でもあったの?」
「まあ詳しい話は聞かなかったけど。だけど、もし人工知能が発達しても残る職業があるとしたら、詐欺師とか政治家とかのほうがあり得るんじゃないかしら?。あ。でもどっちも職業とは言えないか。」
その話はそこで終わったのだけど、後で考えたらなかなか彼女は鋭いところをついていると思った。彼女はもともとSEをやっていて、そこそこIT関連の技術には精通している。一方で、彫金やら陶芸やらもやっているらしい。
少し以前Pepperという、人工知能搭載のエンターテインメントロボットをソフトバンクが発売して話題になった。人の感情を理解してユーモアを駆使して会話ができる、というのが売り文句であった。私も一度ビックカメラのコーヒーメーカー売り場で見たことがある。おそらく店員の代わりをしてくれるのだろうと思い、周りに誰もいないことを確かめてからPepper君に話しかけてみた。
「Pepper君のお勧めはどれ?」
「いらっしゃいませ。僕の胸にあるパネルのボタンを押してください」
残念ながら、期待したコミュニケーションは成立しなかった。どうやらPepper君は店頭デモ用にガチガチにプログラミングされてしまっているようだ。まだまだ人工知能は、理不尽な人間のコミュニケーションを理解できないのかもしれない。
Pepper君は実はロボットという体裁をしながらも、メインは人工知能である。人間と同じようなデバイスにデザインされているのは、Pepper君が感情を持っているかのように人々に思い込ませるためであろう。
もし仮に、Pepper君のベースとなっている人工知能(~たしかエモーショナルエンジンとか言っていたが~)がウソを理解できないでいるとしたら、本当の意味でのジョークを飛ばすことができるのか甚だ疑問だ。ソフトバンクの孫正義氏には、ぜひともPepper君がウソを理解できるように、その人工知能をバージョンアップしてほしいと思う。
しかし、Pepper君にウソが理解できたとしても、Pepper君本人がウソをつけるようになるわけではない。というより、ウソをつく人工知能が人間の役に立つとは思えない。むしろ人工知能としては欠陥品と見なされてしまうかもしれない。
そもそも、人工知能が発達しても最後に残る職業が政治家と詐欺師だとしたら、それは人工知能に問題があるのではなく、人間社会の方に問題があるのではないか。なるほど、ウソをつけない人工知能は政治家には向いていないかもしれない。ならば、政治家のウソを見抜く人工知能を開発して、その人工知能に政治記事を書かせてはどうだろうか。もちろん、その人工知能の開発に当たるのは、政治家たちにウソで対抗できる、一級の詐欺師たちでなければならない。
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